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「運命の歯車」by二足歩行猫さん


 基地の中心に設置された、狂うことが無いとされる原子時計。その時計の表示を見 る人間がいなくなってから、早くも百年以上の月日が流れていた。
 ゾードム軍が所有した秘密地下施設。その一角には、放射線遮蔽・防護服が一着 と、その中に密閉されて久しいゾードム兵が残されていた。
 彼はこの地下基地――「オシリス」を拠点として、活動を続けていたゲリラ部隊の メンバーだった。直接戦闘こそ専門ではないが、プログラミングの腕は部隊でも随一 だった彼は、この基地で稼動していたコンピューターに幾つかのプログラムを施す事 にした。
 超高速演算処理能力。そのポテンシャルを最大限に活かし、新時代の兵器を生み出 すプログラム。いつか訪れるであろう帝国再建の時に、比類無き力を見せ付けるべく 作り上げたそのシステムは、彼が脳疾患で急死した後も休むことなく働き続けた。

 一人の名も無きパイロットが、人類を戦乱から引き離して250年。
 世界は、当然のようにそこにある平和に感謝していた。第一次月戦争によって焦土 と化していた大地も、充分ではないが復興の兆しを見せている。何事も無くその平和 が続く、と、世界中の誰もが思っていた。
 そのため、終戦250周年の記念式典の真っ最中に廃墟へ隕石が落ちてきたとき も、その隕石の正体が、皮肉にもUCS(無人指令衛星)「ヒュペリオン」の残骸だ と判明したときも、とりわけ騒ぐ人間はいなかった。あまつさえ落下地点の地下に軍 の「施設跡=遺跡」が発見された時ですらも、気に留める者は少なかった。遺跡は当 の昔にその機能を停止していたし、ヒュぺリオンの残骸も空中で四散していて、ただ の隕鉄と何ら変わりが無かったからである。

 しかし、地下基地の戦略コンピューター「アヌビス」は、その訪問者に僅かに動揺を 示した。もちろん機械であるアヌビスが、困惑したり狼狽したりした訳ではない。た だ、最後の生き残りだった男が作業服の中で朽ち果てて以来、何かがこの基地を訪れ たのは初めての出来事だったからだ。
 遺跡の最深部である地下八階のフロアーを突き破り、更に下方に位置するオシリス の資材搬入ルートに「それ」は侵入した。
 アヌビスは初め、そのヒュぺリオンの頭部をただのゴミだと勘違いした。飛び込ん できた鉄屑を再利用する為に作業ロボットが解体しようとして、初めてそれが軍事コ ンピューターの中枢だと気がついたのである。

 ヒュぺリオンの機能自体は完全に停止していたが、ブラックボックスのデータは二 世紀半の時が過ぎた今も健在だった。アヌビスはそのコードを解読していくうちに、 一つの機密ファイルを閲覧した。
 UFG(無人戦闘攻撃機)のAIデータを入手したとき、彼が人間であったなら飛 び上がって喜びを表現しただろう。これこそが、彼に欠けていた最後の材料であり、 彼の任務を完結させるには欠かせない要素だったからだ。
 彼が今まで大きな動きを見せなかったのは、偏(ひとえ)に慢性的なパイロット不 足が原因だった。彼はいかに優れた機体を開発しようとも、それを駆る人間までは開 発できなかった。
 そんな歯痒い思いをさせられてきた最大の難関は、AI=人工知能搭載により全面 解決された。
 今、彼が行動を起こす準備は整った。しかしアヌビスは、それに付随して太古の 狂った意思をも甦らせた事を、まったく問題視していなかった。

 その使命を果たしたアヌビスは、あとは作戦実行の命令を――されることのない命 令を待ち、やがて成す術もなく機能を停止するはずだった。しかし、最後にアクセス したヒュぺリオンのデータベースはそれを許そうとはしなかった。
 たった一機の戦闘機に反旗を翻され、迎撃体勢をとりながら撃墜されてしまった過 去。大気圏に突入して大部分が燃え尽き、司令衛星としての思考を終えるまでの二百 数十年間。その高い演算能力により増幅された地球への憎悪は、まったく思いもよら ない形でその捌け口を見出した。

 オシリスが忙しく稼動を始めた。憎悪に飲まれたアヌビスによって、エーオースの 息子であり兄弟である無人戦闘機が産声を上げる。

活動目的『ゾードム帝国再建 及び セプティ・ステラの都市機能停止』
達成条件――ソラリア連邦軍撃破 及び 星間攻撃用兵器開発
活動目的『ゾードム帝国再建 及び セプティ・ステラの都市機能停止』
達成条件――ソラリア連邦軍撃破 及び 星間攻撃用兵器開発




 熱で溶け、ひしゃげた鉄塊が静かに呟く。自らを取り巻く大きな流れに、その歪んだ 理想が再び影を落とす。

 ‥動目‥『地‥奪回 ‥び 各都市機‥停止』
 達成条‥――各地球‥‥壊滅 及‥ 地球国民‥滅
 活動‥‥『地球‥回 及び 各‥市機‥停止』
 達‥条‥――各‥球国家壊‥ 及‥ 地球‥民殲滅




to be continued......