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「ヒーロー(仮題)」by嵯峨さん


 正確な時は覚えていない、子供の頃見たヒーロー。
液晶の中にそれはいた。二足歩行の鉄巨人。 どんな苦難 にも打ち勝つ絶対無敵の勇者。どんな人間よりも人間 らしい心持つロボット。 その姿は幼い兄弟の心に焼き付 いた―

現在

 「敵機、ザラマンダーを突破しました!!」 「海兵隊 壊滅!間もなくアインハンダー、来ます!」
 爆発音と振動が人々を恐慌させる。海兵隊基地兼兵器試 験所。 ここは今戦場になっていた。つい数分の事。 一本腕の戦闘機はその小柄な機体から予測される以上の 速さと全く予想できない火力をもってこの基地の大半の 命を奪い去った。 その戦闘機の名は「エンディミオンMk -2」 地球の者からは死神と恐れられる月からの風。
 まさに風のごときスピードで行き過ぎるものを破棄し 己の千倍以上もの価値を消滅させる。 そしてこの基地 の心臓、原子炉を滅さんと疾風となり迫る。


 「システムオールグリーン。出撃するぜ。」 スイッチ を入れる。緑の灯が目に映りこいつが健康体であること を教える。ベッドで寝そべったままのこいつを起き上がら せようとし、、閃光が俺の目を打つ。 間もなく ソニックブームが俺の体を機体越しに揺さぶる。 レーダ ーには建造物の内部というのに尋常じゃないスピード で迫る何かが、居る。
 奴が来た!! こっちはまだ立ってもいないのによ。 奴は馬鹿みたいに寝ている俺を見逃しちゃくれまい。
 さあどうする?!時間はない! 「だったらこの ままやってやる!!カタパルトを出せ!!」  すぐに俺の体に強烈なGが加わる。 緊急時だからか、 いつもは何かしら注文をつけるオペレーターの 澄んだ声が聞こえない。、、、死んだのか?まさか。
 歯ぎしりをし、操縦幹を握しめる。 また守れなかった のか?俺は! また奴に奪われたのか!?
 カタパルトに引きずられる機体の上半身を起こし、 グレネードを構え、モスキートのセーフティーを切る。
 殺してやる。 殺意で今にもトリガーを引きそうになる 意識を抑えながら、タイミングを待つ。 一秒、二秒、 そして三秒目、奴と俺が重なり合う。 撃鉄を引く時だ。


 彼には妹がいた。妹は彼の目の前で殺された。
誰も助けに来なかった。現実にはヒーローが居ないことを 知った。 それは一本腕を吊り下げた不気味な戦闘機。
 それはアインハンダーの最初期の試作機だった。
 助けはくると信じていた。ヒーローは必ずやってくると 。 しかし下層の者に救いの手は差し伸べられなかった。 それは、あのヒーローアニメを観た直後だった―

 彼は後に軍学校に入ることになる。 そこで現実の 兵器事情、リアリティ、そして心あるロボットなぞ造り えないことを知る。 ならば自分が心になってやる、 そして妹を守れなかった自分を慰めるためにパイロット になる。 そしてテストパイロットとしてあるプロジェク トに参加する。 中型の人型戦車の研究開発、それは 決して有用なものではなく、期待などされてはいなかった 。 しかしメンバーはこの企画の産物がヒーローに なるようにと苦心し設計した。 名は「パルツィファル」
 それは昔彼が観たヒーローアニメのロボットを似せたボ ディをしていた。 そして彼は今、この機体を駆り、 妹を殺した死神の息子に向かっていった―


 俺は空を見上げていた。夜明けらしい。太陽は見えない が空が薄く明かりを出し機体を照らしている。
 あの時、妹の顔を見た。あの瞬間俺はトリガーを引けな かった。 奴のパイロットの顔に妹の面影があった。 しかし何故? 普通キャノピー越しにパイロットの顔など 見えるはずはない。 だが見えちまった。かなり若い 女、もしかしたら子供と呼べるかもしれねぇ。 妹とかぶ っちまった。 妹を撃てる訳がない。、、馬鹿みたいだな 。 奴は遠慮なく撃ってきたってのによ。まぁ、損傷は 大したこと無かったから奇跡的にしろ脱出できたが。

 明けてゆく空を見上げる。今、何処にいるのか、、。 もう破壊されたのかもしれない。何故か気がかりだった。 はっ、敵の心配をしてどうする。 しかし、俺は正しかっ たのだろうか、、。殺してきた中に俺と同じ思いをした 奴等もいたのかもな。 撃たれたから撃ちかえすんじゃ 終わらないのか? この戦争が続く限りガキも戦うはめ になってくるのかもな、、。
 もう一度空を見上げる。あの空を飛ぶ幼い死神を想い ながら。

「ま、ヒーローはガキなんか撃たないもんさ」