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「紅い鳥」by嵯峨さん


 「昔昔、月と地球とで大喧嘩をしていたときがありました。 ある時月は地球 にたくさんの鳥を飛ばしました。 鳥は地球のあちこちを突ついて地球はとても痛がりました。 地球は月にお返しをするために山のように大きい鳥を月に向かって飛ばしました。

 あんな大きな鳥がきたら月はとても困ると、鳥の中に一匹混じっていた紅い鳥が退治してしまいました。 しめたっ、月は地球にさらに白い天使を送り地球を自分のものにしようと考えました。 ところが紅い鳥がそれを邪魔してしまいます。 紅い鳥は月も地球もどちらのものでもないことを知っていました。地球で何人も自分たちのせいで泣いてる人をみてきました。 だからどちらも喧嘩したらいけないと思っていました。 だから紅い鳥は地球も月も懲らしめました。 月と地球は謝り合ったあと、紅い鳥は何処かに行ってしまいました。 今、君たちが平和なのは紅い鳥のおかげなのよ。」
 「ぼくしってるんだよ。あかいとりさんはじつはパパだって。」
 「誰から聞いたの?そのこと。」
 「パパからだよ。おさけのんでるときにパパいってた。」



彼にとって彼女は全てであり 彼女にとって彼は全てであった

 人は愛する者が死の目前に立っているとき、如何するか。 その者の死を受け入れるか、拒絶するか。 男はその者の為に命を売った。 結局は死の肩代わりをしただけで、残された者は業を背負わされたに過ぎない。 男女は二人一緒に居てこその生。欠けることは生に値しない。 男はそれに気付かずに死地に向かうのか、、、。

 人類が宇宙に進出し幾年たったのか。人類は月という環境で生きる術を得た。だが人類は宇宙を制したものだと思い違いをしていた。 月の民のみを襲う奇病。 発生件数こそそれほどではないが、99%の死亡率は月の民に地球への羨望を抱かせた。
 だが多くの犠牲の末(解明の為の人体実験を含む)一応の治療法は発見された。 手術は極めて難解で、そのうえ莫大な金もかかりまず大衆は死から逃れられない。

 一人の女性がその病に犯されていた。 彼女には別の病気だと知らされていた。それは男のはからいであり、男は彼女の美しい蒼い瞳に死の影を落としたくなかったからだ。

 男は絶望した、彼女の笑顔を見るたびに。 何故彼女なのか、先に死ぬべき奴等は居る、代わり に死んでやりたい、、。 そう、彼女のためならば地獄にでも落ちてやる、、、、。


そんな時だ。あの無謀なる作戦が展開されようとしたのは。

 その作戦の参加者は罪状の軽減、強化兵の延命措置などが恩恵として受けられる。即ち幾ら死んでも公開されない、死んでも泣く人間が居ないと思われる人間ばかりが集められた。
 無論そのような人間ばかりでも無いのだが、実際は。
 正規兵からも数少ないながらも志願兵は居た。ある者は聖地地球がどのようなものか知りたいというだけの酔狂な人間であり、ある者は馬鹿みたいに忠誠心が高くお国の為ならば命は惜しくないという人間であった。

 男はその志願兵の中に居た。 その男は軍全体から見てもこの作戦の志願者の人数より少ないトップエースと呼ばれる存在であった。無論強化兵などではない。彼の望むこと、それは彼女の命を救うこと。つまり彼女に手術を受けさせること。 成功するかどうか分からない事の為に命を賭ける。しかし万に一つ彼女が助かるのならば彼は躊躇わず死神に魂すら売るだろう。

 格納庫に彼は案内されていた。 新型戦闘機とのトライアルに敗れ文字通りお蔵入りになっていた 機体があるという。 この機体に換えは無い、ただ一つきりの命。人間と同じだとそれの開発者は言った。そしてこの命に魂を吹き込むのは優れたパイロットである君だ、と。
 眼前に広がる真紅の異形。名はアストライアーMkU。彼はこの紅い死神にくれてやった。

 彼女は何も知らなかった。 手術の前にも簡単なものだとしか聞かされていなかった(失敗はそのまま死だから)  手術が成功し数日後、彼から久し振りに連絡がきた。 何故彼が泣いているのかは分からない、手術が成功したことを喜んでいるようではあったが。その時、彼女は彼から全てを知らされた。彼女を病の事、彼のこれからの事。 彼は約束した、必ず戻ってくると。彼女も約束した、何時までも待っていると。
 彼女は涙を見せなかった。

 彼女の目前にミサイルと銃弾の嵐。 だが臆することは無い。彼のことを信じているから。 実際に傷一つ無く切りぬける。 今、二人は一緒になっていた。彼は確かに迎えに来てくれた。 彼は国家反逆罪に問われていたが、彼女は何一つ気にすることなく彼を受け入れた。 彼と二人で居ることが幸せなのだから。二人の愛の巣は狭いコックピットの中しか無くとも構わない。
 月の空を駆け抜ける一筋の紅い流星。 それの名はアインハンダー、愛故に死を纏った紅い鳥。 眠る運命を変えられた死神は青い粒子を残し新たな死地を求め飛び立つ。死をもって世界を調停するために。 奪い合う定めを変えるために。


終わり