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小論「SFシューティングゲームに表現される実世界の戦争
:アインハンダーを事例に」
by撃墜王エディさん


「SFシューティングゲームに表現される実世界の戦争:アインハンダーを事例に」

アインハンダーの背景にあるストーリーは言うまでもなく「近未来(23世紀)の地球対月の戦争」です。 地球は多民族の統一国家「ゾードム帝国」に統一され、これに対峙して月の都市連合体「セレーネ」があります。 ゾードム帝国の兵器の名称は全てドイツ語であり、セレーネ軍の指揮衛星ヒュペリオンは作戦指令を女声の英語で通達します。 このドイツ対イギリス・アメリカの戦争、第二次世界大戦を想起させる舞台設定を表面に出す形で描写されている アインハンダーの「第二次月戦争」は、実のところ近未来の世界における「日中戦争および太平洋戦争の再来」ではないでしょうか?

高度な軍事テクノロジーを保持しながら民生を支える経済力を決定的に欠いており、 なおかつ避けようがない資源供給の危機を打開するべく「聖地・地球の奪回」を唱えて なかば絶望的な戦争に突入したセレーネの姿はまさしく第二次世界大戦の日本そのものです。 日本と同盟関係にあったドイツにしても、石炭こそ自給できたにせよ、 各種兵器の原材料である鉄鉱石などの各種金属資源、そして兵器を稼動させる石油は 自国で産出できず、そのために東欧諸国を「ゲルマン民族生存圏」と規定して 武力併合していきました。ゾードム帝国=ナチス・ドイツではないのです。

これに対して、国内に豊富な物資と人口と兵力を抱えているのみならず 地球上の政治・経済を一極集中的な支配のもとに置く地球唯一の超大国・ゾードム帝国には 第二次世界大戦から21世紀の幕開けまで本質的には全く変らないアメリカの姿が投影されています。 そして今後アメリカに比肩するスーパーパワーになりうる国家があるとすれば、それは中国でしょう。 日中戦争では日本軍は広大な中国大陸を「点と線」しか把握できず、 無秩序な戦線拡大の末、結局は大陸からの完全撤退を余儀なくされました。 セレーネ地球奪回軍は、第二次月戦争開始時点では次々と地球の拠点都市を奪いながら 旧式兵器で構成されながらも圧倒的な兵力(人員規模・物資調達能力)を有するゾードム軍の 同時反攻作戦の前に壊滅、地球からの撤退を迫られた・・・旧日本軍の轍を踏んだわけです。

今日の中国はといえば、人民解放軍が持つ戦術兵器の質こそ日本自衛隊のそれに数段劣るとはいえ、 戦略核兵器の大量保有、爆発的な経済成長などといった要素が日本における「中国脅威論」を増幅させ、 また中国(あるいはアメリカ)何するものぞと言わんばかりのナショナリズムを刺激しています。 そういえば、「新しい歴史教科書をつくる会」が活発に動き始めたのは アインハンダーが発売された1997年頃だったのではないでしょうか。

過去におけるドイツ・日本対イギリス・アメリカの戦争の再来、 ドイツ・日本を英米的に、英米をドイツ・日本的に描くという立場の逆転、 そして23世紀という(少し遠い)未来における地球対月の星間戦争・・・ などというギミックを駆使しながら、家庭用ゲームとして表現するのがきわめて困難な 「日本対アメリカ(あるいは中国)の全面戦争が21世紀に再び起こりうる」という暗いヴィジョンを 我々の前に提示したユニークな総合芸術作品(CG、映画、音楽、SF文学、シューティングゲームの融合体)、 それがスクウェアが生んだ映像ゲーム史に残る大傑作「アインハンダー」なのです。