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「帝都脱出」by嵯峨さん


 墜落感の中、グライフはそれを見上げていた。それは先ほどの死闘のことなどとう に忘れたかのごとく悠々と飛んでいた。いや、死闘と思っていたのは自分だけかもし れない。奴にとっては己はとるに足らない相手だったのか?薄れゆく意識の中、敗北 者はそれの名を叫んでいた。

―「アインハンダー」と―


 周囲にかなりの数の熱源を感じていた。シャーべが包囲網を形成しようと、集まっ てきていた。
たとえシャーべとはいえ、固定武装のマシンガンだけではこの数では分が悪い。しか し、先ほどのグライフとの闘いで手に持っているガンポッドの残弾数は尽きていた。 いくらアインハンダーとはいえ多勢に無勢だ。
 青い死神は今しがた己が葬ったグライフを恨めしく見下した。見れば、遥か下方に 大穴が開いているのに気づいた。そこからは生気を感じられない。恐らくは旧市街だ ろう、、、。グライフの爆発を隠れ蓑にして、その大穴に身を隠す事にした。
 急降下するそれの姿はさながら獲物を狙い済ました隼かのように見えた。―実際に は狙われていたのは自分自身だったが―どうやら追手はないようだ。しかし、この聖 地に異教徒に安息の場など存在するはずもなかった―


 再び周囲から殺気が発せられるのが分かった。その数20といったところか、物陰 から対人掃討用兵器「アングラー」がその一本腕に握ったガンポッドを向ける。しか し飢えた烏にはそれがわざわざ餌を持ってきてくれた親切な存在に思えた。餌を、前 にした猛禽は嬉々として喰らいついた。
 アングラーの機動性では死神の姿を捉えることは不可能だった。ある一機から奪った ガンポッドで次々と打ち落としてゆき、そしてさらにガンポッドを補充し、その力を 増大させていった。
 異教徒を滅殺すべく送り込まれたものは、逆に自らを脅かす力を与えてしまった―
 この戦慄はあの無慈悲な使者を完全滅殺せねば収まらな いだろう。そのアンビバレンスはこの戦場を一層狂気じみ たものに変えていた。



 旧市街の人々は歓声をあげその事の成り行きを見上げていた。彼らは異教徒とし て、同じ地球に住む者たちに迫害されていた。その彼らの命を地球の敵である、月の 使者が結果的に救ったのだ。
 自分達と同じ地球の者達に恐怖を与えるべくやってきた死神は、彼らの目にどう 映ったのだろうか―


 遺跡上部から赤い光が差し込んできていた。恐らくはすでに発見されているのだろ う。穴の底からでも、先ほどより深く死の気配を感じる事が出来る。もはや隠れきる ことはできない。躊躇せず、死神は上昇した。己は絶望を与えることが使命。それに 再び闘う力も蓄える事が出来た。それにそれの操縦者は知っていた。自分達の生還が 予想されていない事に―


 地上には想像を軽く上回る大群が待ち構えていた。20m弾の嵐が殺到する。死神 のコクピット内で操縦者はあの写真を見つめていた―死神は反重力ユニットのパワー を最大限にまであげた。
 翼が大きく開かれ、アウトバーンを超低空飛行して疾走する。青い残像を銃弾が撃 ち、一瞬先まで死神がいた場所が弾けとび、穿たれた。しかしこのままではいずれは 捕まる。敵の数を減らさねばならない。しかし現在装備しているカノンではこの堅固 な包囲網は打破できない。なにか方法はないか?何か―
 コクピット内で警報が鳴り響き、視界が赤く染まる。ミサイルが接近してきてい た。迂闊だった。一瞬注意が飛んだその隙を狙われたのだ。発射源はワスプを装備し たウーフらしい。
 ワスプは驚異的命中率、追尾性を誇る。二発のミサイルは確実に目標物を破壊すべ く、迫ってきていた。一発目、それは命中する事はなかった。弾幕をはり撃墜したの だ。
 二発目、それは機体下方から襲い掛かってきた。さっき打ち落としたミサイルの爆 風で機体バランスが不安定だ。回避は、不可能。  爆音。黒煙から金属片が飛来する。ウーフのパイロット達は嬉々とした。手柄を立 てたと喜ぶ者、生きて帰れることを感謝する者。彼らは自分達の勝利を確信してい た。
 事実は、違った。敵は己の武器を盾として、生き長らえていた。死神の爪がウーフ に向かって伸びる。装甲が引きちぎられ、心臓が握り潰される。彼らに脱出する暇は 与えられなった。


 コクピット内では次々と標的が映し出されていた。一つ、また一つと光点が消えて ゆく。ワスプのミサイルが軌跡を描き、夜空に花火を上げる。その一つ一つが死にゆ く者たちへの、手向けの花のように思えた―


 それは龍と呼ばれ、地獄の番犬とも呼ばれた。前者はそれの姿を表し、後者はそれ のなす役割を表していた。「ドラッヘ」竜と呼ばれたその兵器は帝都の外壁の警 備、、つまり帝都からの脱走者を抹殺することを使命としていた。
 それは今、食事をしていた。帝都から敗走してきた指揮車両「フレーダーマオス」 をその顎(あぎと)にかけていた。荒ぶる龍にもはや敵も味方もない。動くモノを喰 らう。それだけだ。そして青き死神も獲物の一匹に過ぎなかった―






 補足、ドラッヘは外敵認識力の未熟さ、フレーダーマオスが下ルート通ったときな ぜ出現しないかを表してみました。